ラストダンスは私に

母の介護日記です

あっかんべー

介護生活がはじまって、1ヶ月になる。そろそろ私も疲れがたまってきて、今日はちょっと寝坊してしまった。

朝起きたら、今日も息してるかな…と、恐る恐る母の様子を見に行く。それが私の毎朝のルーティーン。今日の母は、朝から元気だった。両目がぱっちり開いて、ちゃんと視線も合わせられる。声も少し出すことができた。

昼頃、ドクターが診察にきた。いつものように点滴をしようとするのだが、いよいよ針を刺せる血管がなくなってきたようだった。こうなると、一度刺したところに針を刺しっぱなしにして、その先の管だけ付け替えるという処置になるらしい。

今後の点滴の処置についてドクターが私に説明しているのを、母は目を見開き、こわばった顔でじっと観察していた。ドクターと私の様子がいつもと違うけど、耳が遠くて話の内容がわからないから、何をされるんだろうという恐怖心があったのだと思う。

母が何かすごく言いたそうにしていたので、ドクターが直接尋ねてみた。

「点滴、嫌ですか?」母、頷く。「針、刺されるの、嫌?」母、頷く。「そうですか。それじゃあ口からしっかり食べなきゃねえ」母、素直に頷く。

このやり取りが、このドクターの素晴らしいところだと思う。私だったら、「点滴しないと脱水になるよ」とか脅すようなことを言ってしまうところだけど、ドクターは「こうすればいいですよ」と伝えてくれる。

点滴をこれ以上続けるかどうか。私の中でまだ答えが出ない。でも、本人がこんなにはっきり嫌がっている以上、その意思は尊重されるべきではないか。。。

ドクターが帰ったあと、「もう点滴やめようか」と母に言ってみた。すると母は口をあけてベロを出した。「ん? 口の中がどうかしたの? 口のお掃除する?」母はそうじゃないというように首を降る。そして右手を目のところに持って行って、下まぶたを引っ張った。

「こ…これはもしかして…あっかんべー?」母、頷く。「誰に? 先生に?」母、首を振る。「点滴に?」母、頷く。

あっかんべーって・・・お前は小学生か!

たとえいくつになっても、寝たきりになっても、このセンス、母は母のままだった。

あたしゃ涙と鼻水流して悩んだのにさ、なんか損した気分だよ。