ラストダンスは私に

母の介護日記です

母が泣いた日

調子が良かった日の翌日、どうも前の日の元気がない。

その日は午前中に母の生まれ故郷の群馬の親戚がお見舞いにやって来た。母にとっては一番気心の知れた親戚だ。

母の生まれ故郷はいま、世の中の流れに逆らえず、過疎の村になっている。その親戚も1年前から故郷を離れ、一家4世代で埼玉に暮らしている。驚いたことに、94歳の母の叔母もやってきた。母とは10歳ちがいで、姉妹のように育った間柄だ。94歳になるのにどこも悪いところがなく、介護保険の対象にならないのだと言う。母も元来は丈夫だったのだから、病気さえしなければこのくらい元気だったはずなのにと思う。

懐かしい人たちを前に、たくさん話したいことがあるはずなのに、母はもう話をする体力がないよう。最初はいろんな話に相づちを打っていたが、やがて泣き出した。喉をふるわせて。

 

お母さんが泣くなんて。

私が子供の頃、母は絶対泣かなかった。どんなにつらくても泣かない人だと子供心に思っていた。

その母が泣いた。色んな思いが詰まった涙だった。

 

その日はもう、ポータブルトイレを使うこともできなかった。

前の日は何度もトイレに立って、一度もオムツにしなかったのに。