ラストダンスは私に

母の介護日記です

梅雨入り

昨日は親戚が一家四人でお見舞いに来てくれた。1ヶ月前にも来てくれた、母と一番親しい親戚だ。声をかけると、うっすらと開いた目で、誰が来たかを理解したようだった。

せっかく遠くから来てくれたのだからと思って、私は「お母さん、何か話せる?」と発言を促してみた。すると母は一生懸命口を動かして、かすれる声で何かを伝えようとしていた。まるで遺言を聞くかのような雰囲気で、全員が真剣に耳をそばだてた。

「あしたの…あさ…」「うんうん、明日の朝ね」「さむい…」「えっ、寒い?」「明日の朝寒い?」

言ってることはわかったけど、脈絡がつかめず、全員ポカンとした。

「…もしかしたら、明日から寒くなるってことが言いたいんじゃない?」と誰かが言った。そういえば、天気予報で明日から気温が下がるというようなことを言っていたっけ。母のベッドはリビングにあるので、テレビの天気予報を見て覚えていたのだろう。

てっきり「来てくれて、ありがとう」とかいうのかと思ったら、明日の天気の話かい!

もっといいこと言えばいいのにと思ったけど、それはやっぱり私が感動を求めたがるからなんだな。

母はふだんから天気予報が大好きだった。たとえ寝たきりになっても、それは変わらないんだ。私はやせて骨と皮みたいになった母の姿をみて、もうそんなに長くはないだろうとか思っているけど、本人はいたって普通に日常を生きているんだ。

それから、母はお土産にもらった黒蜜きなこプリンを食べた。気に入ったみたいで、大きな口をあけて3〜4口食べた。

今日のニュースで、関東地方が梅雨入りしたといっていた。あとでお母さんに教えてあげよう。