ラストダンスは私に

母の介護日記です

介護離職

介護をきっかけに会社をやめた。連休前を最終出勤日にして有給を消化し、5月末に正式に退職した。

母の末期癌がわかった4月上旬、会社にはすぐに退職の意思を伝えて、引き継ぎのために週に何回か午後から出勤をした。その頃の母はまだ自力でトイレに行くこともできたので、私は家に母を置いて会社に行った。でもなんか、それがものすごくつらかった…。

母を自宅に残して初めて出勤した日。午前中は母に食事をさせたり、薬を飲ませたりして、その後会社に行った。オフィスの扉を開けると、10人くらいの同僚たちが全員、一人でパソコンに向かって黙々と仕事をしている姿が目に入って来た。それは何年も見続けてきた職場の日常風景なんだけど、見た瞬間、気持ち悪くて吐きそうになった。なんというか、自宅と会社の世界があまりに違いすぎて。極端な例えだけど、自分の家が火事になっているのに、火を消すこともできず、急ぎでない仕事を強いられているかのような気分。自分に起きていることと、それに対する気持ちと、取っている行動が、あまりにかけ離れていた。

 

出がけに「お母さん、会社に行ってくるね」と言った時の、母の心細そうな顔を思い出した。私が子供の頃、学校の先生をしていた母はいつも家にいなくて、私はそれがさみしかった。その母が、今度は仕事に出かける私に向かって、さびしそうな顔をする。私と母の立場は逆転してしまった。

だから私はいま、会社を辞めて母の介護をしているのかもしれない。介護という形を取って、母に甘えているのだと思う。