静かな一日
今日の朝ごはんはバナナミルク。バナナと豆乳に、ヨーグルトを少しプラス。
「おいしい」と言って、いつもよりもたくさん食べてくれた。
気に入ったものには、大きな口をあけて待ち受ける。私、子育て中の親鳥になった気分。
ご飯の後、血圧の薬を飲ませて、座薬を入れる。
オムツ替えもだんだん慣れてきた。さいしょは抵抗あったけどね。
それから自分の朝ごはん。自分の食事って意外と後回しになりやすい。
明日は母より先に食べちゃおうかな。
11時、ドクターの訪問診療。看護師さんと交代で、毎日訪問してもらっている。
母は先生が来ると、いつも仏様を拝むように手を合わせる。
ニコニコとして、よそ行きの「いいおばあちゃん」の顔になる。
そして、先生が帰ると、ムスッとしたいつもの顔に戻る。
その変身ぶりを見ると、やはり在宅にしてよかったなあと思う。
いつもそんなに気を遣っていたら疲れちゃうから。
お昼ご飯はコーンスープ。コーンと豆乳をミキサーにかけただけの簡単なものだけど、結構おいしい。
これもお気に入りのようで、大きな口でいつもよりたくさん食べてくれた。
母の食事を作っていると、赤ちゃんだった弟に離乳食を作っていた母の姿を思い出す。
食事の後に緑茶を飲む。
昨日、緑茶を出したら、母はしみじみと「お茶の味がする」と言った。
以前はあまり味に頓着しない人だったけど、病気になってから、とても味わって食べるようになった。
そういえば、お粥にフキノトウを入れたとき「苦味が面白くて」と言って、いつまでも口の中で転がして、味わい尽くしていた。
午後3時、ふと点滴を見ると、そろそろ終わるはずの点滴が半分も落ちていない。
訪問看護ステーションに電話して、点滴が落ちる速度を調節するレバーを教えてもらった。
もしかしたら、トイレに行くために点滴を動かした拍子に、うっかりレバーを触ってしまったかもしれない。
点滴が落ちるのを待ちながら、母の爪を切る。
人の爪を切るのって結構難しく、肉をはさまないように慎重に切る。
農家で育った母の手は、骨太でしっかりしている。私の細い指は父親に似ていて、手の形だけでなく、私が自分の考えを言うと、母はよく「お父さんと同じことを言う」と言う。
体形や体質が似ると、考え方も似るのかもしれないな。
午後5時、ようやく点滴が終了する。
窓から西日が差し込んで、窓際に吊るした点滴の雫がキラキラと輝いていた。
時が止まったような静かな夕暮れに、こんな時間がいつまでも続いてほしいと願う。
それから処方箋を持って薬局に行く。
薬剤師さんとも顔なじみになってきて、「お大事に」とかけてもらう言葉があたたかい。
晩御飯はお粥にした。ネットのレシピを見ながら、土鍋で炊いてみる。
結構手間をかけたのに、お粥はあまり好きではないようで、口が小さくしか開かない。
夜9時過ぎ、めずらしく仕事帰りの兄がやって来る。
普段はもっと遅くまで働いているらしいけど、今日は早めに切り上げて来たらしい。
「お母さんのこと考えたら、仕事が手につかなくてな。俺、なんでこんな時に会社にいるんだろうって」
わかるよ、その気持ち。私もこの間まで同じだったから。
だから会社を辞めた。そこになんかすごく本質的な問題がある気がするんだけど、うまく言語化できないでいる。